都市の中にありながらも、それを少し引いたところ−多くは高台−から眺めてみる。
すると、自然の稜線ではなく、人間の営みがつくり出した稜線が見えてくる。
都市の内側で渦巻きうごめいている人々の欲望が、地面を這いずり、とぐろを巻き、あるいは深く澱の
ように沈澱し、たゆたうともなくたゆたって、長い時間を経ながら少しずつ空に向かって、光に吸い込ま
れるようにゆっくりとした上昇を続けてゆき、少しずつ少しずつ何かに洗われるように、空に溶けていく
ように見える稜線だ。
そのとき僕は、人の欲望や悪意や嫉妬、黒々とした情念や邪念と、建設的な意志や想像力と献身研鑽の
努力、そういった都市にまつわる全てを祝福したい気持ちにかられる。
日本においてこの線のほとんどは、この60年あまりの歳月の中で形作られてきたものであり、今も日
々移り変わっている。
そしてそれが一瞬にして−天災、戦乱その他の暴力、あるいは新たな都市計画によって−崩れ去り、改変
を余儀無くされることも今後あるかもしれない。
しかしこの線のどれもが欠けてはならないと思うのは、死すべき運命をもつものの感傷なのだろうか。
それにしても、一体どこまでが地でどこからが空の領分なのだろう?
(2002年)
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このシリーズは2001年の911事件を契機に開始され、国内外での撮影と発表を重ね、進行中である。
追記:2011年の311以降、都市やそれを作り維持して来たことへの意識が変わって来ている。そのた
め、はっきり明示はできないが上の文章の中には、今の考えとはそぐわない部分もある